人生を少し豊かにするブログ

昨日より少し人生が豊かになったな、と思うことを書いていきます。

『夜と霧』

第二次世界大戦や太平洋戦争は人類にとってどういう意味があったのか?というのが私の中で結構大きなテーマになっていて、この本も読まなければと思っていたのですが、後回しになってしまっていました。終戦の日の前に読み終わってよかったです。
邦訳版のタイトルがあまりにも有名ですが、原題は『或る心理学者の強制収容所体験』というらしいです。内容は原題の通りで、心理学者である筆者がナチス強制収容所体験を心理学の立場から可能な限り客観的に記録する、というものです。体験した者と体験していない者にあるあまりに大きな間隙を少しでも埋めるために、という思いで著された本です。
現実とは思えないような強制収容所の環境が生々しく描かれ、心理学者の目から見た人間の心の動きが記録されています。フランクル自身も被収容者でありながら、よくここまで客観的に分析できるものだと思います。それでも、心を抉られるような記述がでできます。「わたしたちはためらわずに言うことができる。いい人は帰ってこなかった。」「どんな夢も、最悪の夢でさえ、…(中略)…収容所でわたしたちを取り巻いているこの現実に較べたらましだ」「とくに、未成熟な人間が…(中略)…今や解放された者として、今度は自分が力と自由を意のままに、とことんためらいもなく行使して良いのだと履き違えるのだ」
最終的には、人間の生き方とはどうあるべきかを問いかけ、人間らしく生きることはどのような状況であっても可能なのだ、と言います。「最期の瞬間までだれも奪うことのできない人間の精神的自由は、彼が最後の息をひきとるまで、その生を意味深いものにした。…(中略)…強制収容所での生のような、仕事に真価を発揮する機会も、体験に値すべきことを体験する機会も皆無の生にも、意味はあるのだ」「人間とは、ガス室を発明した存在だ。しかし同時に、ガス室に入っても毅然として祈りのことばを口にする存在でもあるのだ」
この本自体が焦点を当てているのは強制収容所の環境とそれを通して見えてくる人間のありかたであって、それを生み出した社会的な問題などには言及していません。しかしながら、国民ひとりひとりが「人間らしさ」を見失った、自分で考えて判断することを放棄したことからドイツや日本の暴走は始まったのだろうなと思います。そしてこれは過去の話ではありません。人間の歴史から見れば戦争よりも平和の方が異常な状態だということがわかります。現代であっても、平和を手にする、維持するには常ならぬ努力が必要なのです。
戦後75年です。ここにいる方も、恐らく全員が「戦争を知らない世代」でしょう。この時期にこういった本に触れて、人間はどう生きるべきかと考えてみるのも良いのではと思います。